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小さな毎日 [過去作]

 照りつける太陽。
窓を開ければ、風に乗って運ばれてくる潮の匂い。
目の前に広がる青い空。
透き通るコバルトブルーの海。
何もかもが見慣れた姿でありながら、見る度に表情を変える。
まるで生きているかのように……。

「今日も暑いな……」
 この暑い中、街路樹に留まっている蝉がうるさく鳴き喚く。
その音を他方向から一斉に受けて、余計に暑さが増してくる。
「でも、夕方には涼しくなると思うよ」
 傍らで、一人の少女が予言めいた事を口にする。
いつもの帰り道。
何事も起こらない……そんな平穏な日々。
 毎日を只々なんとなく過ごしていく日々。
本当はこの瞬間にも何かは起こっているのかも知れない。
ただ、自分がその事に気づいていないだけなのかも知れない。
だけど、俺は知っている……。
何かが起きて、自分がその事を認識する時はいつも突然だ……。
「で、どうして夕方から涼しくなるんだ?」
 俺は隣の少女に問いかける。天気予報でも雨が降ると言っていた記憶はトンと無い。
「匂い……かな?」
「匂い?」
 匂いが何だというのか?
俺の頭の中で、匂いと雨を結び付けようとするが、どうにも理解できない。
それに匂いと言うが、俺にはいつもの潮風の匂いとしか思えない。
「雨の匂いがするんだよ。多分、夕立が来るんじゃないかな?」
 俺が考えていると、隣の少女が教えてくれた。
でも、匂いで判るものなのだろうか?
半信半疑のままで、少女と一緒に家へと帰る。

同じ家に住む二人。
帰る場所も同じ。
食べる物も同じ。
過ごす時間も同じ。
思えば、一体どれほどの時間を彼女と共有してきたのだろうか?
数え切れない時間を共有してきて、俺はどれだけ彼女の事を理解しているのだろう?
数え切れない時間を共有してきて、彼女はどれだけ俺の事を理解しているのだろう?
でも、そんな些細な事はどうでもいい。
今、彼女と二人でこうして同じ時間を共有している事実が変わらない現実なのだから。
「ほら、お兄ちゃんヤッパリ降りだしてきたよ」
 鈴夏に言われて、俺は外を見る。
先刻までの空とはうって変わり、薄暗く今にも雷の鳴りそうな気配が漂っている。
そして、ポツリポツリと窓を叩く音。
それは次第に激しさを増して、雨音が周囲の音を奪っていく。
「もう……お兄ちゃん、ダメだよ」
 窓の外を見るのにも飽きた俺は、鈴夏の後ろから彼女を軽く抱きしめる。
言葉では否定していても、俺の手に自分の手を添えてくる鈴夏。
そんな、いつもの光景。

止まっていた、俺と鈴夏の時間が動き出して……。
只々過ぎていく時間を見送って……。
そして、今もこうして二人で同じ時間を共有して……。
そんな、何も起こらない日常が幸せなのだと思う。
そんな小さな幸せを積み重ねて行く事が、難しいのだと思う。

いつかはこの日常も打ち破られるのかも知れない。
いつかはこの幸せも失うのかも知れない。
だから、今はこの時間を大切に生きていけばいいのだと……。
 
タグ:ラムネ 鈴夏
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