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ハイヒール [アイマス]

 ほんの少しの背伸び。
 本当は追いつく事なんてできないって分かっていても、それでもやってみたかった。
 少ないお小遣いを貯めて買った慣れないハイヒールを履いて、自分にできる精一杯のオシャレをしてみた。
 ボクが持っている服に、ハイヒールに合わせられるモノなんて無かったから事務所の皆に借りたり、衣装部屋のアクセサリーを探してみたりした。
 チグハグなコーディネイトになったボクの事を美希がコーディネイトし直してくれながら、どうにか人前に出られる様な格好にはなったと思う。
「う~ん! 真君! カワイイの!」
 美希の太鼓判を貰って、ボクは鏡を見る。
 確かにそこにはボクの顔をした『オンナノコ』が恥ずかしそうに立っていて、まるでボクがボクじゃ無いみたいだった。
「でも、悔しいの……。こんなにカワイイ真君の隣を歩けるのがミキじゃないなんて……」
「ゴメンね、美希」
「ううん。でも、真君のプロデューサーさんが羨ましいの」
「羨ましいって、言っても仕事だけどね」
 そう、オンナノコの格好をして背伸びしてハイヒールを履いたとしても、これは仕事でしかない。
 だからボクがウキウキしながら美希にコーディネイトしてもらっても、プロデューサーにとってはただの一日でしかない。
 そう考えると、ほんの少しだけ気分が沈んだ。
「まっこと君! 大丈夫なの!」
 そんなボクの事を見透かした様に、美希がボクの背中を叩く。
「プロデューサーさんが仕事だと思ってるんだったら、真君が仕事じゃ無い様にしちゃえばいいの!」
「えっ! 美希……それってどういう!?」
 慌てふためくボクの事を楽しそうに眺める美希は、明らかにこの展開を楽しんでいる様にしか見えない。
 ボクが美希の発する言葉に反応する度に、彼女は『真君カワイイの!』って言いながらキャッキャと騒いでいる。
「み……美希! ボク、そろそろ時間だから行くね!」
 このまま一緒に居ると、ボクはずっと美希のオモチャにされてしまいそうだったから、約束の時間には少し早いけれど事務所を出て行く。
「真く~ん! 今度、美希とデートしてね~!」
 遠ざかっていく美希の声を聞こえないフリして、ボクはビルの廊下を走って待ち合わせの場所へと向かっていく。
「……の……イイ……ら~!」
 最後の方は何を言っているのか聞き取れなかったけど、きっと、とんでも無い事を言っていたに違いない。

「で、結局、そうなった訳か……」
 そう言いながら、タクシーから降りたプロデューサーは頭を抱えてボクの足元を見つめる。
「……すみません」
 ため息を一つ吐いたプロデューサーは、途中で買い物をしてきたのであろうと思われるビニール袋から湿布と包帯を取り出してボクの靴下を脱がし始めると、少し腫れた足首にそれを巻きつけていく。
 ボクは、折れてしまった片方のハイヒールを後ろ髪を引かれる思いで見る。
 お小遣いを貯めて買ったからと云うよりも、プロデューサーに少しでも近づいて歩けると思って買ったのに……と云う思いが頭の中でどんどん大きくなっていく。
 そんな時だった。
 ボクの体がスッと宙に浮いて、プロデューサーの顔がすぐ目の前にあった。
「ぷ、ぷ、ぷ、プロデューサー! 何やってるんですか!」
「何って、真をタクシーに乗せないと仕事に行けないだろ?」
「でも! だからって!」
 だからってお姫様抱っことか!
「真、大人しくしろ!」
 恥ずかしさのあまり腕の中で暴れまわるボクを止める様に、プロデューサーはその手に力を入れてタクシーの後部座席にボクを座らせる。
「運転手さん、出て下さい」
 プロデューサーはそれだけを運転手さんに伝えると、ボクの持っていたハイヒールを取り上げた。
「真、オシャレをする事に関しては構わないけれど、仕事なんだからせめて足元は履き慣れた靴で来て欲しかったかな」
「でも、プロデューサーが女の子らしい格好で来いって言うから……」
 拗ねた口調で反論する。
 プロデューサーにとっては仕事かも知れないけれど、ボクに『女の子らしい格好で』なんて言う位だから少し期待してしまった訳で……。
 だから美希にコーディネイトを手伝ってもらった訳で……。
 そんなボクの先走った考えが、プロデューサーを隣にする事でどんどん恥ずかしくなってくる。
 そうだ! プロデューサーにとっては仕事! プロデューサーにとっては仕事……。
 そう考えると、今度はボクのテンションが下がってしまう訳で……。
「真、取り敢えずこの仕事が終ったらそのハイヒールを修理に出そう。そして、今度はちゃんと履いてくれ」
「え? プロデューサー? それって……」
 それだけ言って、プロデューサーは黙りこんでしまった。
「……はい!」
 運転手にも聞かれてしまって、恥ずかしかったんだったら言わなければ良かったのに……なんて思ったりもしたけれど、でも、このハイヒールを履いてプロデューサーと歩ける日がまたやって来る。
 その日がいつかやってくるだけで、ボクの沈んだ気持ちに晴れ間が射した気がした。

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ベタ展開ですが参加しました。
使用テーマはハイヒールです。
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 [アイマス]

「下手な鉄砲も数撃てば当たる……。下手な鉄砲も数撃てば当たる……」
 私はそう呟きながらエントリーシートに、もう何度目かも分からない自己PR文を書く。
 ママが居ない隙を狙って書かないと、またバカにされるのは目に見えている。
「ホントにもう、いつになったら合格できるんだろう……」
 エントリーシートを書き込む手が止まって、私は天井を見上げた。
 今までオーディションに落ちてきた原因って何だったんだろう……。
 
 アイドルとして事務所に所属する為に受けるオーディション。
 スカウトされてアイドルになる人だって、イッパイ居る筈。
 それなのに、私にはそんな話が来たことは一度も無い。
 だから自分で、アイドルの事務所に所属する為のオーディションを受けに行ってる。
「でも、何で受からないのかなぁ……」
 そういえば、いつも最後までオーディションを受けさせてもらった記憶が無い。
 私を見てくれている事務所の人に途中で切り上げられたり、歌っている時に退屈そうにされたり。
「多分、コレが原因なんだろうなぁ……」
 他人を退屈にさせちゃいけない。
 アイドルになるのに、多分一番大切なコトなんだと思う。
 だけど、原因が分かったとしてもどうすれば良いのかが分からない。
 そう思いながら、私は自己PR文を書く作業に戻る。
 自分の良い所を考えながら一つ一つ書いていくと、自然にイッパイになっていく。
 最初の頃は書く欄の大きさを考えずに書いていたから何度も何度も消したり書いたりしていたけれど、今となっては大体どれくらいの大きさの文字で書けば良いのかが分かってきた。
 だからこのPR文の所だけ文字が小さくなってしまっている。
 他の所は私らしく大きな字で書いているのに、ココだけ私らしさが足りない気がする。
 だけど、オーディションをしてくれる人に私をちゃんと知ってもらわないと受からない気がして、どうしても多くなってしまう……。

「ふぅ……。できた!」
 できたばかりのエントリーシートを掲げて、私は満足気な表情を浮かべる。
 今まで受からなかった分、ほんの少しだけ自己PRを多くしてみた。
「これならきっと受かるよね!」
 私は自分にそう言い聞かせる様に、大きな声を挙げて封筒に必要なモノを全部入れる。
 祈るように、閉じた封筒の前で『パンパンッ!』って手を叩いて、学校のカバンの横へと置いた。
 明日、学校に行く前にちゃんと出さないと……。

「……なんで受からないんだろう」
 私は俯きながら、思い足取りでとぼとぼと家へ向かう。
 今回オーディションを受けた所は珍しく、エントリーシートを返してくれた。
「一度、ママに相談した方が良いのかなぁ……」
 でもママ、デビューしてから爆発的に売れちゃったから参考にならないかも知れないよなぁ……。
 だけど、いつもなら返してもらえないエントリーシートを返してくれたって事にはちゃんと意味があるんだと思う。
「ダメもと……だよね?」

「愛……。コレじゃ受かる訳無いわよ……」
 エントリーシートを見たママは、呆れた様にため息を吐く。
「ママ……何がダメなの?」
「自己PRね」
 ママはバッサリと、私の自信作である自己PRを切り捨てた。
「愛、何でもかんでも詰め込めば良いって思ってたでしょう?」
 ママの言葉に小さく頷く。
「それがダメなのよ。典型的なヘタクソの書く自己PR!」
 ママの言葉がグサグサと鋭く私の胸に突き刺さる。
「女ってのはね、ミステリアスな方が魅力あるのよ? 愛みたいに自分をアピールしようとして何でも書いちゃダメ!」
「でも、私に『ミステリアス』なんて似合わないよぅ……」
 私の反論を聞いて、ママがまたため息を吐く。
「愛~? 自己PRで自分の事を全部書いちゃったら、それだけで向こうは愛のコト、全て分かった気になるでしょう? それに、こんなに書いてたら向こうも読むのが面倒になるわよ?」
 ママは、エントリーシートに赤ペンで修正を加えながら私に説明をしてくれる。
「だから必要最低限のコトだけを書いて、相手に『愛』って云う存在についての興味を持たせるの。それだけでも、違うはずよ?」
 ママの言ってる事を聞きながら、私は自分の書いていた改めて自己PRを見直す。
 確かにコレじゃ、読むのは面倒くさいし、読み終わったら私の事は全部分かっちゃうから話が弾まないかも知れない。
 自信作だったはずのソレは、今では単なる失敗作にしかみえてこなくなっていた。
「ま、精々頑張りなさい。失敗を繰り返したら、繰り返しただけ成功した時の喜びが増すから」
 エールをくれるママの言葉が、さっきまでグサグサ刺していた心の傷を癒してくれる様だった……。

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今週もアイマス1時間SSに参加してみました。
使用テーマは『下手』です。
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一歩 [アイマス]

 風景が映し出されたスクリーンにゆっくりと文字が流れていく。
 その中に私の名前を見つけて、ほんの少しだけ嬉しさと懐かしさが込み上げてくる。
 初めて出演した映画。
 今までアイドルとして、音楽番組には何度も出演してきた。
 グラビアの撮影で、何度もカメラには撮られてきた。
 だけど、女優としては初めての演技。
 改めて観てみると他の共演者と比べて自分の演技がたどたどしくて、浮いているのが良く分かる。
 だけど、これが私の女優としての第一歩。
 アイドルとしての『三浦あずさ』じゃなくて、女優としての『三浦あずさ』の第一歩。

「あずささんお疲れ様でした」
 試写会の舞台挨拶が終って、舞台袖で待っていたプロデューサーさんが私に声を掛けてくれる。
「ふふっ。お疲れ様です」
「どうでしたか、初めての演技は?」
 そんなプロデューサーさんの言葉に、ほんの少し恥ずかしさを覚える。
「あずささん、これからはこっちの仕事の方を中心に仕事をする様になるんですから『恥ずかしい』って思ったら駄目ですよ」
 私の表情から、見透かしたようにプロデューサーさんが注意してくれる。
「それに、今までアイドルとして培ってきた事を活用していけば良いんです」
 プロデューサーさんの言っている事はもっともだ。

 カメラの前で歌う事には慣れている。
 カメラの前で写真を撮られる事には慣れている。

 今までのレッスンで培ってきた事は、芸能界で生きていく事に全て繋がっている。

 ボイスレッスン――。
 発声の基礎ができてなければ、マイクに声を拾ってもらう事さえも難しい。

 ダンスレッスン――。
 おっとりとした私にとって、会話のテンポを掴むのにとても大切だったレッスン。

 表現力レッスン――。
 演技の幅を広げる為のレッスン。
 同じセリフ、同じ声量でもこれ一つで全てが変わってくる。

 歌詞レッスン――。
 歌詞を読み解く事で、表現に幅を持たせる事ができる。

 ポーズレッスン――。
 カメラに映える動きや、身体をしっかりと留めるためのレッスン。
 これができるかどうかで、自分の動きが全然違ってくる。

「あずささん? これから、やっていけそうですか?」
 プロデューサーさんの質問に私は、ハッキリとした声で答える。
「はい。これからも宜しくお願いします!」

 今までのレッスンが、この世界の繋がっている。
 だからこれからもプロデューサーさんの力が私には必要。
 だからこれからも一緒に歩いていこう。
 ゆっくりと二人で歩いていけば、色んな景色が見られるから。

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アイマス1時間SS企画に参加させて戴きました。
お題は『映画』です。
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CRIMSON RED [アイマス]

 夕焼けが町を朱に染めていく。
電車の窓から流れていく風景は、朱からゆっくりと色彩を落とし暗闇へと包まれていく。
私は、その風景の移り変わりを、まるで自分の様だと感じながら目を瞑る。
ほんの少し長い時間を身体を揺られながら過ごすと、見慣れた風景が私の目の前に入ってくる。

今日も一日が終わっちゃった……。

十六歳の貴重な一日が、こうしてまた終わる。
友達がみんな遊んでいる中、私は毎週の様に事務所へと向かい、そして未だに現れないでいる見た事も無い『私のプロデューサーさん』を待つのだった……。

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タグ:春香 律子
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小さな毎日 [過去作]

 照りつける太陽。
窓を開ければ、風に乗って運ばれてくる潮の匂い。
目の前に広がる青い空。
透き通るコバルトブルーの海。
何もかもが見慣れた姿でありながら、見る度に表情を変える。
まるで生きているかのように……。

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タグ:ラムネ 鈴夏
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モーニングティーを二人で【side:kotori】 [アイマス]

 今日も天気が良い一日になりそうだわ……。
 私は電車の窓から流れる景色を眺めながら、そんな事を思う。
 毎日の変わらない風景でも、天気によって顔は変わっていく。
 これで、シートに座る事ができたらもっと良いのだけれど……。
 そんな事を考えても、この朝の出勤ラッシュの時間帯では仕方が無い。
 今日も私は、揺れるつり革に掴まって事務所へと向かうのだった。


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タグ:小鳥
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ワタシ ノ タンジョウビ [アイマス]

 毎日毎日がパァーっと過ぎていく。
 プロデューサーとあずさんさんと私……そしてファンとの時間。
 気が付いたら、たっくさんの時間が過ぎていてイッパイいろんな事をやっていた。
 ジムショも二回お引越しして大きくなったケド、やっぱり一番最初のジムショが一番居心地がヨカッタなぁ……。
 そんな事を思い出していたら、いつの間にか目の前が真っ暗になっていた……。

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私のチョコレート [アイマス]

「……ふぅ」
 私は、動かしていた手を止め、一息つく。
 私の目の前には、甘いにおいの漂う黒い液体の入ったなべが一つ。
 小指ですくって、味見をしてみても間違いはない。
 チョコレートだ……。
「何で、私、チョコレートなんて作ってるんだろう……」
 ロケや、レッスンの移動中、車や電車のまどから流れる風景に目をやると、街はバレンタインムードで溢れかえっていた。
 その光景は、私にはとても遠く、別の世界の様に感じられる。
 去年までの学校に通っていた頃は、渡す相手が居ないまでも周囲の話題に乗って『バレンタインが近づいてきたんだな……』と実感する事ができたのだけど、アイドルとして活動する様になって毎日が目まぐるしく過ぎていくと、時間が経つのをついつい忘れてしまう。
 ……浦島太郎が竜宮城から帰って来た時も、こんな気分だったのだろうか?
 不意に、そんな事を思った。

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タグ:律子
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